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それまで「ヘルマン屋敷」は僕たちの唯一の冒険の場所だった。
ある時はかくれんぼをするのには絶好の場所だったし、夏には肝試しの場所だったりした。夜には外灯もないし音も全く無いので近所の森やお墓のある場所よりもずっと怖かった。
「ヘルマン屋敷」自体も部屋数が多く迷路みたいになっている。
近くの公園なんかよりずっと面白い場所だ。
ブランコや滑り台とかは無いけれど子供にとっては宝箱のような魅力が詰まっていた。
近所の子供たちが昼間に大勢集まる。川向こうの隣町から来る子もいた。
アツシくんもその一人だった。
近所の子達は名前を知っていたけれど校区が違ったりしていたら下の名前しかわからないし当然漢字もわからない。
だからその男の子もアツシくんと呼ばれていた。
僕のことも苗字で呼ぶ子なんて誰一人いなかった。
そんな楽しい場所だったのにアツシくんが救急車で運ばれて行った日から僕の記憶の中では早く忘れたい場所になっていた。
いや、他の子供たちもそうだったかもしれない。
同時に一緒に遊んでいた子供たちの顔も忘れたかった。
アツシくんのたくさん流れる血をみたせいかもしれない。
早くアツシくんのことも忘れよう。
早く忘れたい顔の中には水野さんもいた。
アツシくんの事件の後、僕は水野さんとの約束を破った。
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