ヘルマン邸

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 一体どんな人種が住んでいるんだ? と思うくらいひどい家がたくさんある。  少し風が吹いただけでもガタガタと音を立てているトタン屋根は大きな台風など来ればあっと言う間に吹き飛んでしまうだろう。既に屋根が捲れ上がって揺れている家もある。  割れた窓ガラスは直すこともなくガムテープが貼られているだけだ。  数十件の平屋の住宅の間に連ねられた物干し。周囲に散乱するゴミの山。放し飼いの犬は飼っているのか野犬なのか区別すらできない。  集落の中を歩いている人はまともな服を着ている者などいない。僕の母が見たら目を背けてしまいそうだ。  父はよく「あそこの集落は時間が止まったような場所だ」と言っていた。 電気、ガスはおろか水道もなく、汲み水を使い生活排水をそのまま川に流しているらしい。 町はそこに住む人たちに立ち退き交渉をずっと続けている。  ほとんどの家が違法に家を建てているからだ。それを公有地の不法占拠と呼ぶ。  しかし、住人はいっこうに出ようとしないらしい。住んでいる場所を追い出されるのは誰だってイヤだ。たとえ違法であっても。
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