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~東の洞窟~
木の覆い茂った洞窟の周りは、昼間だというのに夜のように暗い。
洞窟の壁には一筋ちろちろと水が流れていて、白い洞窟の一部を茶色く変色させている。
瘴気というものがみるるたちに分かるとすれば、この洞窟の中からそっと香ってくる黒い異臭をそう判断しただろう。
「あ、あは、あの、やっぱり、僕・・・」
みるるは後ずさる。ここはやばい。
長年の放浪生活で培ったみるるの野生の感が言っている。
「ノルウェイ金貨を差し上げましょう!」
すると突然ここまで連れて来た村の男の一人が言った。
「何・・・?」
ぴくりとみるるの眉が動く。
「ノルウェイ金貨を、二十枚。悪くない話のはずだ。・・・あなたが一番欲しいものでしょう?」
みるるは目を眇めて男を見た。
「僕を調べたね・・・?」
男は少しあとずさる。
たぶんこの男にもみるるがお姫様だと言っても信じないだろう。
「入ってきてください。我々と・・・あなたの国のために」
ち、とみるるは舌打ちした。
「仕方ねえなあ・・・」
みるるは洞窟と向き合う。
「『我と共に生き、我と共に滅びよ』う、我が剣、アルベルト」
かち、と剣の柄を鳴らして。
共に戦場を生き延びる誓いを騎士の心である剣とする。
それがいつものみるるの習慣だった。
だが手はすかっと空を切る。
ない。
そこにあるはずの剣が、無かった。
「あああーっ!」
ぽむ、と王さまが手を打つ。
「そう言えば、没収していたな、剣」
みるるは頭を抱えた。
「ああー!剣の無い騎士なんてキーボードの無いパソコンみたいなものだよぅ!どーしよー!!!」
「あのー・・・」
がしがしと頭を掻き毟るみるるにおそるおそるフラルが話しかける。
「んだよ!」
「剣、よかったら・・・俺が取ってこようか?」
ぎ、と涙目でみるるはフラルを睨んだ。
「やれるもんならやってみろお!」
その瞬間。
ばさあ、っと。
フラルの背から、真っ黒な翼が生えた。
・・・マジ?
ぱちぱちと王さまがのんきに拍手をしていた。
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