第六章 賢者と死体

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~東の洞窟内部にて~ みるるはライターをつけ、紙に火を移す。 ぽーんと紙を洞窟の奧に放ると、紙はしばらく燃えた後消し炭になった。 「どこかから空気が流れ込んでるみたいだな」 みるるはふところからフランス王国の国旗の刻み込まれた懐中電灯を取り出す。 「ほら。フラルと王さまの分」 フラルと王さまも懐中電灯を受け取ってスイッチをひねった。 「すごいな。軍用じゃないか、これ」 懐中電灯を眺めて王さまが言う。 「へへへ。国から追い出されるときにかっぱらってきたんだ。便利だからな」 フラルは懐中電灯のまるい光で辺りを照らし、ぶるっと身震いした。 滑る地面に、どこからともなく響く水の音。 本当の闇が、そこかしこで口を開けていた。 「…怖い…」 そう言ってフラルはみるるの肩にしがみつく。 「大丈夫。悪魔より怖えもんはそうそうない。それより…ん?」 パキン、と薄い金属の板でもへし折るような音がした。 「なんだ?なんか踏んだ…?」 みるるはそれを手に取る。 懐中電灯で照らして、硬直した。 「これ…銀の…罠…」 銀の罠。それは銀の薄い板とバネでつくる、子供用のおもちゃである。 「だが、それに魔力を少し分けて入れておけば、銀の罠が跳ねたときに少しの魔力の動きがあるため、魔術師なんかが侵入者を発見する為のごく初歩的な防衛装置としても使われる」 かってに王さまが説明を奪って言った。 「…どうしたの?突然」 「いや、説明が長くなりそうだったから、思わず」 フラルは首をかしげる。 と、そのフラルの目が妖しい輝きを放ち始めた。 「なんだろう…何かいる。これは…とおっても、良くない、何か…」 ぞわぞわと王さまの肌が総毛立つ。 フラルと同じく、何かの魔力に反応しているのだ。 「…来る!」 遠くで。 一瞬、みるるの耳が獣の息づかいを捕らえた。
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