4.湯船にとける二人の気持ち

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 こうして、俺は黒川くんと一緒に住むことになった。  俺の家に連れて来た時「ほ、本当にここに住んでいいんですか?」とか「俺なんかが、贅沢だ」と慌ててみせた。 「どこにでもあるタワーマンションだよ。それでも、君が喜んでくれたなら嬉しい」  俺がそう言うと、黒川くんはじっとりと見た。 「黒川くん、どうしたんだ。そんなにジッと見て」 「……誰にでも、そんなふうに言ってるんだろうなって、思ってました」 「そ、そんなことないぞ! 俺は、元カノにだってそんなこと……」  そこまで言ってハッとする。元カノの話だなんていまさらしても仕方ないのに。 「元カノ……?」 「ああ、ずいぶん前に別れたんだよ」  黒川くんは俺の言葉を聞いても不服そうだった。 「彼女とは……長く付き合っていたんだけど振られたんだ」  窓の傍に立つ黒川くんを抱き寄せる。  黒川くんの肩越しに見える風景は、遠くまで見渡せて清々しい。けれどいつもどこか心を寂しくさせた。でも、今は黒川くんを抱きしめているから胸が温かい。 「“一緒にいてもつまらない”とか“いつもつまらなさそうな顔をしてる”とか“人間じゃないみたい”なんて言われたな……。でもどれもあながち間違ってないだろう? 昔から言われてたんだ。冷酷だとか、表情が読めないって」 「そ、そんなことないです……」  黒川くんは俺に素直に抱かれている。  そのまま、俺の腕に頭を擦りつけた。 「唯史さんは、わかりやすい、ですよ」  そんなこと、初めて言われた。 「だって、出会った時も俺が冷蔵庫を倒しかけて、助けてくれたじゃないですか。あの時の、必死な顔、忘れません」  そんな必死な顔してたか……。 「そ、それに、ショットバーでも助けてくれようとしました! ……勘違いでしたけど」  黒川くんの声は少し笑っているようだった。  あの時のことは今思い出しても顔から火が出るほど恥ずかしい。  黒川くんはそのまま俺を見上げる。 「あ、あと、個人的にですけど、セックスしているときの顔も好きです。俺のこと、大事にしてくれてるんだって感じました。キスも……」 「お、起きてたのか……!」  黒川くんは照れながら「はい」とはにかんだ。
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