4.湯船にとける二人の気持ち

4/4
110人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「お、俺、セックスで気持ちよくなったことがないんです。でも、唯史さんとのセックスは、おかしくなるほど気持ちよくって……。唯史さんのこと、遊び人なんだって疑ってました。でも、こうやって話していくうちに印象って変わるんですね……」  しみじみと言う黒川くんの頭を撫でる。 「そうだよ。人と関わること、怖がらなくていいんだよ」 「……そう、かもですね」 「だから、俺からひとつ提案があるんだ」 「提案、ですか?」  黒川くんが振り返り、俺と向き合った。 「うん。――今のお仕事、続けてみる気はないか? 実は責任者の人と話す機会があって、黒川くんのことを心配してたよ。ちょっと馴染めないからって逃げる必要はないんだ。俺と話して印象が変わったように、もっと関わろうとしていけば、お互い印象が変わるはずだ。そうすれば、自然とみんな、黒川くんを必要とするようになるよ」 「そ……ですかね」 「うん。だまされたと思ってやってみな」 「……はい」  黒川くんは、俺と暮らすようになって、みるみる変わっていった。  少しずつ性格は明るくなり、楽しそうに会社に行っている。  責任者にこっそり聞いた話だけれど、近いうちに正社員になるかもしれないらしい。  かくいう俺も、黒川くんと暮らすようになって、周りから表情が柔らかくなったと言われることが増えた。  俺たちはお互いに、お互いを必要としている。  お互いのいびつさを支え合って、愛し合っている。  きっと出会うべくして出会ったんだ。 完 【サポーター特典に後日談もあります。よければどうぞ】
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!