110人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「お、俺、セックスで気持ちよくなったことがないんです。でも、唯史さんとのセックスは、おかしくなるほど気持ちよくって……。唯史さんのこと、遊び人なんだって疑ってました。でも、こうやって話していくうちに印象って変わるんですね……」
しみじみと言う黒川くんの頭を撫でる。
「そうだよ。人と関わること、怖がらなくていいんだよ」
「……そう、かもですね」
「だから、俺からひとつ提案があるんだ」
「提案、ですか?」
黒川くんが振り返り、俺と向き合った。
「うん。――今のお仕事、続けてみる気はないか? 実は責任者の人と話す機会があって、黒川くんのことを心配してたよ。ちょっと馴染めないからって逃げる必要はないんだ。俺と話して印象が変わったように、もっと関わろうとしていけば、お互い印象が変わるはずだ。そうすれば、自然とみんな、黒川くんを必要とするようになるよ」
「そ……ですかね」
「うん。だまされたと思ってやってみな」
「……はい」
黒川くんは、俺と暮らすようになって、みるみる変わっていった。
少しずつ性格は明るくなり、楽しそうに会社に行っている。
責任者にこっそり聞いた話だけれど、近いうちに正社員になるかもしれないらしい。
かくいう俺も、黒川くんと暮らすようになって、周りから表情が柔らかくなったと言われることが増えた。
俺たちはお互いに、お互いを必要としている。
お互いのいびつさを支え合って、愛し合っている。
きっと出会うべくして出会ったんだ。
完
【サポーター特典に後日談もあります。よければどうぞ】
最初のコメントを投稿しよう!