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エレベーターが一階へ向かって下りる中で、俺は帰宅後の予定を考える。
部屋の掃除は昨日もしたし、映画もドラマも見飽きてしまった。
何もすることがない。それにコレといった趣味もない。
予定を考えるだけで自己嫌悪が増していく。
一階につき、マンションのエントランスに出るとギョッとした。
ファミリータイプの冷蔵庫に小さな足が生えて、ノソノソと動いていたからだ。見つめていると冷蔵庫が横にゆらりと揺れる。倒れるかと思って俺は慌てて駆け寄った。冷蔵庫を両手でがっつり抑える。
「あ」
声がして、俺は視線を落とす。
冷蔵庫を抱きかかえるようにして持っている中性的な顔立ちの若い子と目が合った。どうやらこの子が運んでいたらしい。
「君、大丈夫かい?」
黒いつなぎに撤去会社の刺繍が肩に入っていることから作業員の一人だということがわかる。それにしてもこんな若くて細い子が冷蔵庫を持ち上げるなんて……。
黒髪に白い肌。目は大きく、唇は薄いピンク。冷蔵庫を持っていたからだろうか、その頬はほんのり色づいている。
「大丈夫……です」
声を聞いて驚いた。
この容姿で男だと気づいたからだ。
「一人で持つのは危ないよ。一緒に持とうか?」
「底にキャスターついてるんで、大丈夫、ですよ。っていうか……一緒に持ってもらったらスーツ、汚れると思いますし」
青年は俺のスーツをチラチラと見る。シャツの衿口に目をやると、油のシミがついていた。さっき冷蔵庫を抱きかかえた時についたらしい。
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