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2.思うは少年のことばかり
とはいえ、名前やプライベートがわかったとしても俺にはどうすることもできないんだよなぁ。
仕事を終えた俺は大きく溜め息を吐き、駐車していた車のロックを外した。
多分、もう会えない。
そもそも、こんな感情が異常なんだ。
たまたま目についた人が気になって、追いかけまわすだなんてストーカー同然だ。
車に乗り込もうと扉を開ける。
顔を上げると、目を見張った。
会いたいと焦がれていた黒川くんの横顔が、視線の先にあったからだ。
駐車場のフェンスの向こう側。俯いて歩くその姿は捨てられた野良猫のようだった。
俺はそのまま車の扉を閉め、フラフラと彼の後ろをつけた。黒川くんは俺が後ろにいることにも気づかない様子で、商店街へ入っていく。飲食店が立ち並ぶ大通りを抜けると、静かな住宅街へ出る。そこで黒川くんが急に足を止めた。
バレたか! と思い、俺は慌てて近くの電柱に身をひそめた。
黒川くんは顔を上げて建物を見るとそのまま中へ入っていく。俺も彼が完全に入ったことを確認すると、黒川くんが見上げた場所に立ち顔を上げた。ビルには店舗の看板があった。
「ビトゥイーン・ザ・シーツ? いつものところで待ち合わせ……?」
看板の名前を読みあげる。看板の雰囲気からショットバーらしい。
ちなみに直訳すると『いつものところ(ベッド)で待ってて』だと思う。どこか意味深な感じがする。
でもこの名前の通りに、黒川くんが誰かと待ち合わせをしていたとしたら……?
いろいろな考えが頭の中で浮かんでは消えたが、俺は意を決してその店の木製扉に手をかけた。この中に、黒川くんがいるんだ。
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