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店内は落ち着いた雰囲気で、おしゃれなジャズが流れていた。
マスターだと思われる男が俺に気づくと「いらっしゃいませ」と言う。
そのマスターは長い髪を三つ編みでまとめている。黒川くん同様、中性的な顔立ちをしているのに、一目見ただけで男だとわかった。印象は綺麗な顔の男、というだけで不思議と黒川くんを見た時みたいなトキメキはない。
俺は店内を見て、カウンターに座る黒川くんを見つけると、その後ろにある丸いテーブル席に腰かけた。
黒川くんは、一人、だろうか。
席に座るとさっきのマスターがメニュー表を持ってきた。俺は小声でビールを頼む。
席が悪かったのか、黒川くんに背を向ける形で座ってしまったので、様子がわからない。今からでも席を変えようか……。いや、でも、変えると声が聞こえなさそうだ。
俺が思考をめぐらせていると「おまたせ」という明るい声が聞こえた。黒川くんではない。チラっと振り返ると金髪のいかにも性格の明るそうな男がやってきて黒川くんの隣に座った。黒川くんより少し年上だろうか。
「待って、ません。飲みますか、お酒……」
言葉を詰まらせる黒川くん。この喋り方は、彼のデフォルトなのだろうか。それとも金髪の男に緊張している?
盗み聞きが止まらない。
「どうぞ」
突然目の前に頼んだビールがテーブルの上に置かれて驚いた。マスターを見上げると、不思議そうな顔をされた。
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