2.思うは少年のことばかり

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「……どうも」  誤魔化すように愛想笑いをした。  変に、思われただろうか。  そう思っても、気持ちは後ろの二人に戻っていく。  男も酒を頼み、黒川くんと楽しそうに話す。男が働く会社の話とか珍客とか。他愛のない話だ。黒川くんはほとんど黙っている。  本当に、友達……か? 「それよりさぁ、そろそろいいんじゃないか?」  男の声が少し淫猥なトーンになる。 「えっ、その……」  慌てる黒川くんの声。  これって嫌がってるんじゃないのか? 「そんなウブな反応すんなよ。お前だって期待してるんだろ?」  男の声がクククッと笑う。 「そ、そういうつもりじゃ……」  これは完全に嫌がってるだろ!  俺は目の前にあるヌルくなったビールのグラスを掴むと一気に飲み干した。そしてグラスをわざと音を立ててテーブルに置くと、振り返った。  男はこちらをチラリとも見ないまま、黒川くんの腰に腕を回し、引き寄せていた。頭にカッと血が上る。  男の肩を掴み、こちらへ無理やり向かせると睨みつける。 「なんだよ! お前!」  慌てる男に俺は口を開いた。 「彼、嫌がってるだろう!」  自分でも驚くほど大きな声が出た。  しっかりと見て確認することはできないが、黒川くんが俺を見ていると感じる。  男は俺を見上げ、睨み返してきた。 「なんだよ、勝手に勘違いしやがって! ちっ……しらけちまった。俺、もう帰るわ」  そのまま財布からお札をいくらか出し、テーブルに置くと店から出て行った。  大事にならなくてよかった。  俺はホッと息をつく。  黒川くんに向きなおり、彼の薄い両肩を手のひらで包み込んだ。 「君、危なかったね」  黒川くんと目が合った。  なんて綺麗な瞳だろう。猫の瞳を彷彿させるぱっちり開いた瞳。形のいい二重まぶた。  俺が見とれていると、彼の瞳が潤み、急にワッと泣きだした。 「なっ……!」  慌てふためく俺に彼は抱きついてくる。  密着し、上目遣いする黒川くん。 「ど、どうしてくれるんですか。俺の、晩ごはん……」
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