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「それはそうと…。」
アルフォンスが話し出した。
丁度、エレベーターに乗り込んだところである。他に客はおらさず、今は二人しかいない。
「すぐにバレてしまいましたね。【幸紀】?」
くすりと笑うアルフォンスとは対象的に、幸紀はやや気落ちした様子である。
「あー…うん。何でかな?らしくしたつもりだったんだけど。」
「まぁ、あの方は鋭い目をしていらっしゃいますからね。そうだ…今度服のテイストを少し変えますか?」
「それもありかもね。でも、アルみたいにスーツが似合う紳士になりたかったなぁ。」
無邪気な物言いに、アルフォンスは微笑んだ。
「スーツはまだ早いのかもしれません。せめて今度は、大人らしいものをご用意しますね。」
幸紀はさっと、首を横に振った。
「いやいや!悪いよ。この服だけで十分過ぎるし。」
「服はいくらでもあるので、問題ありません。それに、貴方の失った記憶と何やら関係がありそうですから、これがいい刺激になるかもしれません。」
アルフォンスの言葉に、幸紀はありがとうとだけ答えた。
数時間前、アルフォンスは幸紀に頼まれた事があった。
自分を【龍紀】と呼んでほしい事。
そして何か男物の服装を用意してほしい事。
幸紀が着ていたものは、白い病院着。
記憶が抜けたせいか、生前着ていたものを姿にする事が出来なかった為に、着せたものだった。
だから何か服を用意しようと、アルフォンスが言った時、男物の服をリクエストされた。
「何かわからないけど…女の子の服はちょっと、抵抗感じるっていうか…悪いんだけどいいかな?」
すまなそうに言われ、アルフォンスは悪い気は一切せずに今幸紀の着ている服装を用意したのだ。
(確か…記されていましたかね。)
アルフォンスは頭の中で、数時間前に見た手帳の中身を思い出す。
【幼少期の過去に何かあり、それにより男装癖がある。】
(詳しく記載されていないあたり、記憶を無くしていますね。)
魂が覚えている記憶だけが、アルフォンスの持つ手帳に記される。
アルフォンスが知っている事は、幸紀も覚えている事だけだ。
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