第3話 初仕事

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第3話 初仕事

エレベーターが止まると、その先には広い部屋があった。 高い天井から、大きなシャンデリアが吊られ、その天井に届く程の本棚が、いくつも部屋の中にそびえ立っている。 辺りには本がふわふわと宙を漂って、勝手に本棚から飛び出したり、本棚に収まったりと動いているものがあった。 「あの本も魔法か?」 「あれは魂ですよ。」 「え?本が?」 幸紀が驚いて聞くと、アルフォンスが1冊の本を手繰り寄せた。 辞書のように分厚い緑色の本。 表紙には金文字で、英語が書かれている。 幸紀は読めはしなかったが、人の名前であると検討はついた。 「魂は1度2つに割って、片方はこちらで本の形にして管理し、片方は元の姿にして管理するのです。」 「何でわざわざ2つに分ける必要があるんだ?」 「まぁ、こちらが管理しやすいようにという理由もあります。分ける事で記憶を確認しやすいですし、もし…悪さをする魂なら、片方を痛めつければ向こうにもダメージがいきますからね。懲らしめられます。」 悪い笑みを浮かべるアルフォンスに、冷や汗が出た。 「…恐ろしいな。」 「それと、損傷の激しい魂や記憶の抜け落ちた魂は、どの記憶がないのかわかりにくいものです。ですが本の形にする事で、ほら。」 アルフォンスが緑色の本のを開いて見せる。 英語で読めないが、ページが1枚破れているのがわかった。 「記憶が抜けています。前後の文面から、抜けた部分を推測できます。」 「確かに便利だな。」 「この本の形となった魂を、【ゲヒルン】と呼んでおります。」 「…脳?」 「はい。ちなみにもう片方の、人の形をした魂の方は【ヘルツ】と呼ばれております。」 「脳と心臓か…どっちとも大切だな。」 幸紀が感心したように呟くと、アルフォンスが失笑した。 そして表紙をもう1度、幸紀に見せる。 「貴方…この表紙の英語は読めますか?」 「え、いや、俺英語は読めないって。」 「そうですか…なのに、ドイツ語はわかるのですね。」 「…まぁな。そんな事もあるだろ。」 幸紀はさっと顔を背けた。 その視線の先に、見知った生き物の姿を捉えて声をかける。 「あ、デズモンド!」 「ににゃ?あ!管理人様!」 手紙を届けに来てくれた、デズモンド・スリッパーという生物だ。 デズモンドは幸紀に気づくなり、てちてちと小さな足を世話しなく動かしてこちらにやって来た。
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