第1話 煉獄

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一口飲み、ほっと息をつく。 「美味しいです。」 「ありがとうございます。」 素直な感想に、男は満足そうな笑みを浮かべる。 そして落ち着いてきたであろう相手に、こう尋ねる。 「さて、まずお伺いいたしますが、貴方は白崎様でよろしいでしょうか?」 「え…なんで私の名前を?」 男は黒い革の手帳を取り出し、訊ねる。 開いたページには、黒髪に明るい茶色の瞳の少女の顔写真。それとびっしりと書かれた個人情報。 「知っておりますとも。白崎幸紀(シロサキ ユキ)様。年齢は15歳。女性。誕生日は6月6 日のふたご座。好物も嫌いな物も今までの経緯も・・・そして8月1日に転落し意識不明の重体になっている事もね。」 手帳を見つめながら、息継ぎもせず一気に幸紀の情報を読み上げる。 パタンと手帳を閉じ、にこりと笑ってみせた男に、少女白崎幸紀は震え、そして警戒した。 自分の個人情報を知る不審人物を、不気味に感じたのもあるが、よく考えれば意識のない自分をここに連れて来た人物なのだ。つまり誘拐犯、怪しいどころではない。 「おやおや、そう警戒せずとも貴方に危害を加えたりはいたしませんよ。」 「…見ず知らずの人間に個人情報をここまで知られてて、普通に出来ません。」 「あぁ、それはごもっともです。では、自己紹介をさせていただきましょう。」 男はパチン!!と指を鳴らした。とたんに部屋の灯りが消えて、あたりは暗闇に変わる。 そして男の上にだけ、スポットライトのような光が当たり、どこからともなく軽やかな音楽が鳴り響いた。 「私はアルフォンス。このホテル・ヴァイスマンの支配人で、この世界の管理人の1人でございます。以後お見知りおきを。」 アルフォンスと名乗った男は、恭しく頭を下げる。 すると音楽とともに、歓声や拍手が沸いた。 あまりの煩さに若干顔をしかめつつ、黙って男の様子を見る幸紀。 「さぁ、名乗りましたよ。白崎様、色々と聞きたい事がありそうですね?何でも聞いてください。まずは貴方に信用していただかなくては、いけませんからね。」 幸紀の上にもスポットライトが当たる。 何だかこの男の手のひらの上にいるようで、さらに幸紀は不快感を露にした。 「じゃあ、ここはどこですか?ホテルとは聞きましたけど。」
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