第1話 煉獄

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「はい、ホテル・ヴァイスマンでございます。煉獄の世界で1番の高級ホテルです。」 「はぁ…確かにそんな雰囲気の部屋だとは思いましたけど。…え?何の世界ですって?」 聞き間違えたのだろうか。 そう思ったのだが、すぐにアルフォンスがそれを否定した。 「はい、煉獄でございます。人間の生きる世界と、あの世と呼ばれる死後の世界の間とでも言いましょうか。天国と地獄の中間地点にあるとも言えますが。」 「えっと…冗談ですよね?」 怪訝な面持ちで問いかけるが、男はいたって真面目な顔で言い切った、 「冗談ではございませんよ。信じられないなら、そちらの窓から外をご覧下さい。」 アルフォンスが出した窓からは、太陽の光が漏れ出している。 特に変わったところもなさそうに思える。 白崎幸紀はおそるおそる窓に近づいていった。 「窓にもたれないように、落ちてはいけませんからね。」 後ろから注意してくるアルフォンス。 そう言って突き落としでもするのだろうか。 背中の気配に気を付けながら、幸紀は窓の外を覗きこむ。 「……え…。」 自分の目を疑ってしまう。 そんな世界が、窓の外に存在した。 すぐ上には暖かい日の光と青空。だが、その更に奥ではどしゃ降りの雨と暗雲立ち込めた空があった。 その右手には、三日月の浮かぶ夜空。左手には雪のちらつく曇り空があった。 いくつもの空が、存在している。 下を見ると、さらにぎょっとした。 ホテルの下には地面はなく、ぽっかりと暗い空間があるだけだった。まるで奈落の底だ。 少し先を見れば、ちゃんと地面があり、街も存在した。どうやらホテルの周りだけ、城の掘りのように奈落のような空間が出来ているようだ。 驚愕した幸紀の声は、自身が思うより小さかった。 「…こんなの見たことない。」 「この世界では当たり前の事ですよ。街によって気候も日の落ち方も違います。」 幸紀はさっとアルフォンスから離れる。 「…窓ガラスに細工でもしてるんじゃないですか?」 「疑い深いですね。では、窓を開けてご覧下さい。」 「…落とす気じゃないんですか。」 「そんな事いたしませんよ。では、少し離れますので。」
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