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「はい、ホテル・ヴァイスマンでございます。煉獄の世界で1番の高級ホテルです。」
「はぁ…確かにそんな雰囲気の部屋だとは思いましたけど。…え?何の世界ですって?」
聞き間違えたのだろうか。
そう思ったのだが、すぐにアルフォンスがそれを否定した。
「はい、煉獄でございます。人間の生きる世界と、あの世と呼ばれる死後の世界の間とでも言いましょうか。天国と地獄の中間地点にあるとも言えますが。」
「えっと…冗談ですよね?」
怪訝な面持ちで問いかけるが、男はいたって真面目な顔で言い切った、
「冗談ではございませんよ。信じられないなら、そちらの窓から外をご覧下さい。」
アルフォンスが出した窓からは、太陽の光が漏れ出している。
特に変わったところもなさそうに思える。
白崎幸紀はおそるおそる窓に近づいていった。
「窓にもたれないように、落ちてはいけませんからね。」
後ろから注意してくるアルフォンス。
そう言って突き落としでもするのだろうか。
背中の気配に気を付けながら、幸紀は窓の外を覗きこむ。
「……え…。」
自分の目を疑ってしまう。
そんな世界が、窓の外に存在した。
すぐ上には暖かい日の光と青空。だが、その更に奥ではどしゃ降りの雨と暗雲立ち込めた空があった。
その右手には、三日月の浮かぶ夜空。左手には雪のちらつく曇り空があった。
いくつもの空が、存在している。
下を見ると、さらにぎょっとした。
ホテルの下には地面はなく、ぽっかりと暗い空間があるだけだった。まるで奈落の底だ。
少し先を見れば、ちゃんと地面があり、街も存在した。どうやらホテルの周りだけ、城の掘りのように奈落のような空間が出来ているようだ。
驚愕した幸紀の声は、自身が思うより小さかった。
「…こんなの見たことない。」
「この世界では当たり前の事ですよ。街によって気候も日の落ち方も違います。」
幸紀はさっとアルフォンスから離れる。
「…窓ガラスに細工でもしてるんじゃないですか?」
「疑い深いですね。では、窓を開けてご覧下さい。」
「…落とす気じゃないんですか。」
「そんな事いたしませんよ。では、少し離れますので。」
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