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アルフォンスは幸紀から2、3歩離れて後ろに手を組んで立った。
それでも疑わしそうにアルフォンスを見ていた幸紀だったが、アルフォンスが動かない事を確認し、ゆっくりと窓を開けた。
開ける前と同じ景色が広がっている。
窓に小細工は一切なかった。
どうやら信じるしかなさそうである。
窓を閉めて、アルフォンスに向き直った。
未だに部屋は暗いまま。
スポットライトに照らされたまま、アルフォンスは待っていた。そして幸紀にも、スポットライトは当たったままである。
「…ここが私の知らない世界なのはわかりました。ですが、貴方の事はまだ信用出来ません。それに私はどうしてここにいるんですか?貴方が…連れてきたんですか?」
幸紀の言う事も最もであった。
見ず知らずの人間にと一緒で、しかも知らない世界に来てしまったのだから。
少々警戒しすぎだが、仕方ないと言える。
幸紀の目は疑いだけでなく、覚悟の色も滲ませていた。それはある事を聞かされる事に対してのもの。
自分がもう、死んでしまった事実を受け入れようという強い意志の籠った目だ。
アルフォンスはそれを察し、早めに答えを言ってやった。
「単刀直入に申し上げましょう、白崎様。貴方がここにいる理由はつまり…
貴方が死にかけているからです。」
「…死にかけている?死んだの間違いでは?」
幸紀は予想と若干違った答えに戸惑いを見せる。
「いいえ。貴方はまだ生きています。先程お話したように、意識不明の重体です。今も貴方の体は、元の世界で生命活動中ですよ。まぁ、いつ死んでもおかしくはない状態ですがね…。覚えていますか?貴方が石階段から落ちた事を。」
「勿論…、あれは私の自殺ですから。」
幸紀は冷然といった感じで言った。
自分が自殺した事に対して、何とも思っていないようである。むしろそれがどうしたとでも言いたげな姿に、アルフォンスは沈痛な面持ちで話しかける。
「はぁ…白崎様。」
「何ですか。」
「…きっと、お辛かったでしょう。」
「わかったような口をきかないでください。」
幸紀という少女はどこまでも冷たかった。
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