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その時幸紀の脳裏にさっと、死ぬ寸前の光景が過る。
住宅街の寂れた公園。その近くの蛇のような長く細い石階段。
そこから幸紀は自分で飛び降りたのだ。
もう終わりにしたかったから。
死ぬ勇気を出しての一歩だった。
「白崎様。お聞きしますが、貴方…本当に自殺だったんですか?」
「え?」
「いえ、ただの疑問です。自殺された者の様子ではないようなので…。」
「…自殺ですよ。覚えてますから。」
「…そうですか。」
しばらく2人の間に沈黙があった。
暗闇の中では、楽しげな音楽が流れているが、2人の周りだけ空気が重々しく無音の空間に感じられる。
先に話し出したのは、幸紀の方だった。
「で、私は死にかけの状態になって、ここまで貴方に連れて来られたと?」
「正確には、貴方からこちらの世界に魂だけとなって舞い込んだので、連れて来た訳ではありませんね。回収したのも、別の方ですし。ただ…あまりにも損傷が激しい魂でしたので、このホテルに泊めて治療をしたのは私です。」
「えっと、うん…もう驚きはしないけど、私怪我してたんですか?肉体が怪我してたから魂も同じみたいに?」
「ああ、ここで言う損傷は魂自体の怪我の事です。魂とは、人の心や意志そのもの。生前に色々とあった人間は損傷された状態でやって来ます。そのままですと、転生も元の肉体に戻る事も出来ません。だから私が治します。」
アルフォンスはため息をつく。
「貴方損傷が激しすぎて、苦労しましたよ。何百年も生きてきましたが、そのお年で長時間の治療を必要とした魂ははじめてです。」
「な、なるほど…。えっと、それに関してはありがとうこざいます…。」
「いいえ、管理人として当然の仕事をしたまでです。ですが…。」
アルフォンスの顔が急に曇りだした。
「どうかしたんですか?」
「治療は完全には出来ませんでした。白崎様自身がその…生きる気力を無くしていたのもありますが、治りが遅く…貴方の頭の中までは治せませんでした。」
「頭の中?」
意味がわからず聞き返してみる。
「質問を質問で返す事になりますが、白崎様…貴方は何人家族でしたか?」
「は?…何人家族って……えっ…と?」
幸紀は考え込んでしまった。
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