第1話 煉獄

6/12

33人が本棚に入れています
本棚に追加
/317ページ
考えなくてもわかるはずの事が、全くわからない。 幸紀は落ちつけと自分に言い聞かせる。 別の事ならわかるかもしれない。 今度は親の名前を思いだそうとした。 だが、わからなかった。 兄弟の名前…いや、もしかしたら一人っ子だったのかもしれない。 どうだったのだろうか。 そもそも思い出そうとしている事自体が、異常ではないか。 じわりと額に嫌な汗が浮かんできた。 「…やはり。」 その様子にアルフォンスは肩をすくめる。 「私とした事が…。本当に申し訳ありません。」 「あの、もしかして私、記憶が…。」 「はい。ところどころ抜け落ちています。貴方は頭を深く打ち付けました。そのせいか魂の方でも同様のダメージを受けたようで、やはり中身までは間に合わず…記憶が抜け落ち、混乱していたりと後遺症が残る形となりました。」 「でも、肉体と魂のダメージは別じゃ…?」 「恐らく…貴方は死の直前、心に大きなダメージを受けてしまった事が原因かと。例えば、誰かに突き落とされたとか、そういった事が起きたのであれば…肉体のダメージが魂に関与し、記憶が消える事もあり得ます。」 だから自殺を疑っていたのか。 幸紀は納得した。 しかし、幸紀は誰かを見た記憶がなかった。 自分が覚えている事も、事実ではないのだとしても、一体自分の身に何があったのだろうか。 「白崎様、誠に申し訳ありませんでした。」 アルフォンスは深々と頭を下げる。 幸紀は慌てて、アルフォンスを宥めた。 「い、いや、大丈夫です!お気になさらず…。」 「気にしますよ!!」 「あ、はい。すみません。」 だがすぐに失敗する。 咄嗟に謝ってしまった幸紀に、アルフォンスは真摯な面持ちで話し出した。 「このような状態となってしまって、白崎様には説明しておかなくてはいけない事がいくつもあります。心して聞いてください。私は嘘は言いません。どうか信じていただけますか?」
/317ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加