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考えなくてもわかるはずの事が、全くわからない。
幸紀は落ちつけと自分に言い聞かせる。
別の事ならわかるかもしれない。
今度は親の名前を思いだそうとした。
だが、わからなかった。
兄弟の名前…いや、もしかしたら一人っ子だったのかもしれない。
どうだったのだろうか。
そもそも思い出そうとしている事自体が、異常ではないか。
じわりと額に嫌な汗が浮かんできた。
「…やはり。」
その様子にアルフォンスは肩をすくめる。
「私とした事が…。本当に申し訳ありません。」
「あの、もしかして私、記憶が…。」
「はい。ところどころ抜け落ちています。貴方は頭を深く打ち付けました。そのせいか魂の方でも同様のダメージを受けたようで、やはり中身までは間に合わず…記憶が抜け落ち、混乱していたりと後遺症が残る形となりました。」
「でも、肉体と魂のダメージは別じゃ…?」
「恐らく…貴方は死の直前、心に大きなダメージを受けてしまった事が原因かと。例えば、誰かに突き落とされたとか、そういった事が起きたのであれば…肉体のダメージが魂に関与し、記憶が消える事もあり得ます。」
だから自殺を疑っていたのか。
幸紀は納得した。
しかし、幸紀は誰かを見た記憶がなかった。
自分が覚えている事も、事実ではないのだとしても、一体自分の身に何があったのだろうか。
「白崎様、誠に申し訳ありませんでした。」
アルフォンスは深々と頭を下げる。
幸紀は慌てて、アルフォンスを宥めた。
「い、いや、大丈夫です!お気になさらず…。」
「気にしますよ!!」
「あ、はい。すみません。」
だがすぐに失敗する。
咄嗟に謝ってしまった幸紀に、アルフォンスは真摯な面持ちで話し出した。
「このような状態となってしまって、白崎様には説明しておかなくてはいけない事がいくつもあります。心して聞いてください。私は嘘は言いません。どうか信じていただけますか?」
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