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幸紀は躊躇った。
出会ったばかりの、まだ謎のある人物を信じるという事に。
だが、この知らない世界で、頼れるのはこの人だけ。
真面目で誠実そうな人なのではないか。
きっと、大丈夫だ。
(いや、…でも。)
『嘘なんてついてないよ。俺を信じなって!!』
誰かの言葉を思い出した。
もう穴だらけの記憶のせいで、顔も名前もわからない。だが親しい人物だったし、アルフォンスと同じ事を言ってくれた。
そして…思い出せはしないが、裏切られた。
(もう騙されたくない。)
ギリリ…と奥歯を噛み締める。
「…信じられないのなら、こういたしましょう。」
アルフォンスはパチン!と指を鳴らした。
煙とともに、アルフォンスの手に羽ペンと紙が出現する。
紙からは、黒い禍々しいオーラのようなものが、漏れだしている。
「契約書です。これで、貴方と約束いたしましょう。貴方に嘘をつかず、貴方をお守りするという契約を…。書面はわかりやすいでしょう。」
「…その黒いもの出てますけど…もしかして危ない契約ですか?」
「悪魔の契約書なので、危ないといえば非常に危ないでしょう。ですが貴方に危害はありません。私にだけです。」
「それなら…いいですけど。」
幸紀はやっと頷いた。
「では、記入します。日本語の方がよろしいでしょうね。」
アルフォンスはさらさらと、何やら書き込んでいる。
そして幸紀に紙を手渡した。
黒いオーラの放つ紙をおそるおそる受け取り、内容を確認する。
「えっ!?」
そして驚愕のあまり、アルフォンスに詰め寄った。
「これ何ですか!!」
「何って…契約書です。貴方が持っていただかなくてはいけませんので。」
「そうじゃなくて、内容です!!」
【私、アルフォンスこと●●●●●は、白崎幸紀が生き返るまでの間、白崎幸紀に嘘はつかず、白崎幸紀を守る事を誓う。破れば、私の命を持って償う事をここに記す。】
「ああ、私のアルフォンスは偽名でして、契約書の力を増すためにも本名がいいと思い、書かせていただきました。ですが、本名は読めないよう契約書が自動的にモザイクを…。」
「そこでもありません!命を持って償うって何ですか…そこまでする必要ありますか。」
「大いにあります。そうでもしなければ、信用しないのが貴方でしょう。」
言葉に詰まった。
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