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「先程から貴方…疑い深すぎではないですか。私との話し方、私との距離…全てが警戒心剥き出しです。そんな貴方には、ここまでしてもわからない事まで、するしか無理だと判断したまでです。」
叱るような物言いに、ふいとアルフォンスから視線を外した。
確かにアルフォンスの言うとおりだった。こうまでしてもらわないと、いや、してもらった今も、相手に少しも心を開けないでいる。
(そもそも、何故ここまでしてくれるのか…。)
「私は管理人…貴方の生前の事も、貴方が無くした記憶もすべて知っております。そうなってしまうのも、無理はない人生を歩まれたのはわかります。ですが、ここは信じていただきたい。」
澄んだまっすぐなグレーの瞳で、幸紀をじっと見つめた。強い光を宿した目。
どこかで見た輝きだった。
そのせいなのか、アルフォンスの説得が効いたのか、もう1度だけ、他人を信じてみる気になった。
(どうせ死んだ身だし。騙されたとしてこれ以上悪い事もないだろう。)
「わかりました。貴方にはお世話になりそうですし…信じてみます。だから、その、契約書はやめてください。」
「ありがとうございます。」
アルフォンスが恭しく頭を下げたとたん、部屋の電気がパッとついた。
「おっと、申し訳ありません。つい力を抜いてしまいましたね。」
「いいですけど…あの、さっきの話の続きを…。」
バターン!!
「お手紙でございまーすでゲース!!!」
ドアが開かれたかと思うと、何か黒い物体が走って来た。
幸紀は音にまずびくりとし、すぐさまアルフォンスの後ろに隠れる。
「おい、デズモンド。ノックぐらいしないか。」
アルフォンスが高圧的な態度で、黒い物体を叱りつける。
黒い物体は、アルフォンスの前で急ブレーキをかけ、可愛らしくお辞儀をした。
幸紀は、恐る恐るアルフォンスの後ろから、黒い物体を観察する。
一言で言えば、猫だ。
黒いローブを被った、猫のような耳としっぽを生やした小さな生き物。顔は見えないが、恐らく猫。
「も、申し訳ありませんでゲス。」
「はぁ…もういい。ところで用件は何だ?手紙と言っていたな。」
「は、はいでゲス!!新しい管理人様宛てにお手紙なんでゲス。」
「そうか、もう届いたか。ご苦労様だデズモンド、もう下が…。」
「あー!!そちらの方が新しい管理人様でございますでゲスね!!」
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