第1話 煉獄

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「先程から貴方…疑い深すぎではないですか。私との話し方、私との距離…全てが警戒心剥き出しです。そんな貴方には、ここまでしてもわからない事まで、するしか無理だと判断したまでです。」 叱るような物言いに、ふいとアルフォンスから視線を外した。 確かにアルフォンスの言うとおりだった。こうまでしてもらわないと、いや、してもらった今も、相手に少しも心を開けないでいる。 (そもそも、何故ここまでしてくれるのか…。) 「私は管理人…貴方の生前の事も、貴方が無くした記憶もすべて知っております。そうなってしまうのも、無理はない人生を歩まれたのはわかります。ですが、ここは信じていただきたい。」 澄んだまっすぐなグレーの瞳で、幸紀をじっと見つめた。強い光を宿した目。 どこかで見た輝きだった。 そのせいなのか、アルフォンスの説得が効いたのか、もう1度だけ、他人を信じてみる気になった。 (どうせ死んだ身だし。騙されたとしてこれ以上悪い事もないだろう。) 「わかりました。貴方にはお世話になりそうですし…信じてみます。だから、その、契約書はやめてください。」 「ありがとうございます。」 アルフォンスが恭しく頭を下げたとたん、部屋の電気がパッとついた。 「おっと、申し訳ありません。つい力を抜いてしまいましたね。」 「いいですけど…あの、さっきの話の続きを…。」 バターン!! 「お手紙でございまーすでゲース!!!」 ドアが開かれたかと思うと、何か黒い物体が走って来た。 幸紀は音にまずびくりとし、すぐさまアルフォンスの後ろに隠れる。 「おい、デズモンド。ノックぐらいしないか。」 アルフォンスが高圧的な態度で、黒い物体を叱りつける。 黒い物体は、アルフォンスの前で急ブレーキをかけ、可愛らしくお辞儀をした。 幸紀は、恐る恐るアルフォンスの後ろから、黒い物体を観察する。 一言で言えば、猫だ。 黒いローブを被った、猫のような耳としっぽを生やした小さな生き物。顔は見えないが、恐らく猫。 「も、申し訳ありませんでゲス。」 「はぁ…もういい。ところで用件は何だ?手紙と言っていたな。」 「は、はいでゲス!!新しい管理人様宛てにお手紙なんでゲス。」 「そうか、もう届いたか。ご苦労様だデズモンド、もう下が…。」 「あー!!そちらの方が新しい管理人様でございますでゲスね!!」
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