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暫くすると、俺が目を覚ましたのは見慣れた天井の、自分の家だった。
「やっと目を覚ましたのかい?」
ベッドの横から、婆さんの嗄れた声が聞こえてくる。
「荷物は私が若いうちに運んどいたよ」
「それだけ聞くと、とんでもなく昔のことに聞こえるなぁ」
起き抜けに悪態をつく。
「もうすぐ婆さんが来て五年か……」
「うむ。ワシも歳を取った」
「変わんねぇよ」
「褒め言葉じゃの」
ベッドに寝転がったまま、婆さんの顔を見ず、天井を見つめたまま会話を続ける。確かに五年前と比べて一回り小さくなったような気もするし、さらにシワが増えた気もする。今、直視してしまえば、それらを否定することなど出来ないだろう。
「ワシもあと何年もつか……」
「らしくないな」
思わず、本音がこぼれた。勿論、いなくなるなら、いっこうに構わない。俺の敵がいなくなり、元の自由な生活が戻ってくるんだ。
それでも、五年も一緒にいると、多少の情が芽生えてしまうのは、俺も人間であるという証なのだろう。
出来れば死に別れなんてしたくない。
「そうだ、アンタにこれをやろう」
婆さんが言って懐から取りだしたのは、婆さんのようにシワシワになった薄汚れた紙切れだった。見慣れない文字と、人の顔が記してある。よく見ると紙は三種類あり、少しずつ見た目が違っていた。どの人物の顔も、シワが深く刻まれていて、思わず婆さんの顔と見比べてしまう。
「これは……?」
「うむ。これは、お年玉という」
聞き慣れない言葉に首を傾げるも、角度を変えることで差し出されたシワシワの紙がキラキラと光った。
「金属が含まれているのか……何か特別な紙で出来ているな」
「特別じゃよー。特にこの万札なんかは、最も価値が高い。全部アンタにやろう」
「いいのか?」
「あぁ、アンタには世話になってるからなぁ」
俺は婆さんからシワシワの紙束を受け取った。一枚一枚シワを伸ばし、描かれている人物の顔を見る。
「光にかざしてみない」
婆さんに言われるがまま、紙を一枚、天井に釣りしてある灯りに向けた。
「スゲェ、同じ顔だ」
「それは偽造防止のカラクリじゃよ」
「ギゾウ?」
今までにも、婆さんから知らない言葉を聴くことはあったが、今日はやけに多いなと感じる。
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