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「さっきのオトシダマというのも気になる」
婆さんはこのシワシワの紙をオトシダマと言った。どう見ても玉なんかではない。紙だ。
「可愛い孫への贈り物じゃよ。一年の初めに貰えるもので、子供の頃は年が変わることよりも、このお年玉が貰えるのが楽しみで仕方なかった」
「ふーん。で、マゴってなんだ?」
聞き慣れない言葉、三つ目。
「孫……ねぇ」
婆さんが珍しく、言葉に詰まる。少し考えている様子だ。
「うん。これだね。……孫とは、老い先短い年寄りにとって、未来を託す宝物じゃよ」
そう言って婆さんはベッドの横から去って行った。
翌日、俺は婆さんから貰ったオトシダマという紙切れを知り合いの商人の所へ持っていった。すると、驚くことに商人は目の色を変え、高額を提示して俺に譲ってほしいと頼んできた。
オトシダマとやらを換金し、その金で俺は高くて手が届かなかった物をようやく購入する。それを持って家路を急いだ。
「婆さん! この間のオトシダマの例だ!」
「おやまぁ、綺麗な指輪だねぇ」
「婆さんに似合うと思ってな。高かったんだぜ?」
「ありがとうねぇ」
婆さんはお礼を言うと、俺から指輪を素直に受け取り、右手の指に通した。
その瞬間、婆さんが眩い光に包まれる。
「ハハハ! 発動したぞ! その指輪はなぁ、異世界転送の魔装具だ! さっさと元の世界に戻りやがれ!」
俺は高笑いしながら、婆さんがいなくなった元の自由な生活を思い描いて歓喜した。
光が弱くなり、フッと婆さんを中心に風が凪ぐ。その風に頬を撫でられて、自分の目から涙が溢れていることに気がついた。
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