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「あ、そうだ。それならファーグスさんの森に行ってみない?」
「え?」
ぽん、と思い出したように手を打ち、俺が心の中で却下した選択肢を出し、思わず首を捻る。
ファーグスの森というと、つい先月まで攻略していた最前線だ。湧出するMobはヘスティアーのフィールドMobまでとはいかないものの十分強力だし、主だったMobは木に擬態するトレントだ。
歩くだけでも常に周囲を警戒せねばならず、今回のデートという目的にはとてもそぐわないと思うのだが、その心は果たして。
「オクシュアー戦の後、あの森に出てくるMobはみんな非能動になったんだって」
「非能動ってことは、自分から襲ってこないってことだよな?」
「うん、もちろんステータスとかはそのままだし、こっちから手を出せば襲ってくるけどそうじゃない限りは丸腰で歩いてても平気だって」
「へぇ……」
モンスターが襲ってこないというのなら、あの森は2050年代の日本ではなかなかお目にかかれないただの美しいブナ林だ。のんびりとする分にはうってつけだろう。
そういえば湖もあったことだし、釣り糸を垂らしてみるのもまた一興かもしれない。
「それなら、とりあえず行ってみようか」
「うん!」
どうせ最初に転送されるのは安全地帯だ。そこから出ないかぎりは少なくとも身は安全だろうし、行くだけ行ってみるのも悪くはなかろう。
テーブルに預けていた身体を起こし、すっかり冷めた残りの紅茶を一気に飲み干して立ち上がる。
既に飲み終えていたルナも続いて立ち上がり、NPCに「ご馳走様でした」と一声かけてから店を後にした。
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