悪たる樹霊

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そう言うと、ルナは俺の手を引いて神木の裏へと向かう。 普段は目の前の根っこの架け橋を渡って森の中へと進んで行くため裏に入るのは初めてだが、そういえばシャインは一度装備を換装するために入っていたか。 動きに迷いがない辺りルナはシャインから何があるか聞いていたのだろう。 「おお……」 がさがさと長く伸びた草花を掻き分け進み、ようやく視界が開けた瞬間、目に飛び込んできた景色に思わず感嘆の声を上げてしまう。 表の苔と短い草に覆われただけの地面とは対照的に、コンソールの裏には色とりどりの花が咲く僅かな空間があった。 広さで言うならほんの三、四畳くらいだろうか、浮島に孔を穿ったように存在する花畑は背丈の高い草と神木によって周囲を完全に囲まれており、視覚的に隔絶された、秘密基地然とした作りになっている。 「私も来たのは初めてだけど、ちょっと秘密基地みたいだね」 「そうだな……」 花を踏みつぶしてしまわないように僅かなスペースに足を付けて移動し、神木に背中を預けるように腰を下ろす。 ルナもそれに続いて俺のすぐ側に腰を下ろして、さりげなく右手を俺の左手に重ねて緩く握り込んだ。 何もない時には珍しいルナのボディタッチに少し驚き、左隣に視線を向けると、ルナはライトブラウンの双眸でこちらをじっと見つめ、何かを待ってるかのような期待の表情を隠そうともしていない。 「……」 知り合って行動を共にするようになってから九ヶ月。恋人同士となってからでも既に四ヶ月以上。 確かにまだまだ長いと言えるほどの長さではないが、流石に彼女が今何を求めているのかくらいはわかる。 ……正直、凄まじく気恥ずかしい。それ自体はもう何度か交わしているが、お互いに一向に慣れるような気配はない。終わった後はいつも二人とも顔を真っ赤にしてしばらく何も話さなくなるレベルで恥ずかしいのだが、それでもルナは時々こうしてキスを求めてくる。
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