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「あらあら、睦じいことですわね」
「ッ!?」
疲労困憊といった様子で倒れたルナの頭を膝に乗せて休ませていると、不意に頭上からからかうような声が降ってくる。
一ヶ月ぶりに聞くその声に視線を向けると、遥か頭上の神木から伸びる枝の一本にファーグスが腰掛けていた。
「久しぶりの来客はどなたかと思えば、お二人だったのですね」
「ああ、悪いな邪魔してる」
「いえいえお気になさらず。ルナさんは……おやすみのようですね、まああれだけ情熱的だったのですから無理もありません」
「……やっぱり見てたのか」
ファーグスのまるで俺達が何をしていたのか知っているかのような口ぶりに嘆息する。
周囲を気にするような余裕はとても無かったが、考えてみればこの森は彼女の領域。全体に彼女の目があるようなものだ。この森においてファーグスの目を忍ぶことなどそもそも不可能だった。
「ふふ、大変良いものを見せていただきましたよ。殿方を誑かし惑わすのは私達ニンフの本懐なれど、たまには初々しい男女の必死な睦み合いを眺めるのもまた一興。楽しませていただきました」
「……それはよかった」
ゲーム上の人工知能とはいえ、人間とそう変わらない情緒を持つファーグスに見られていたと思うと、途端に恥ずかしさが揺り戻しのように襲ってくる。
必死な睦み合いというか、半分くらい襲われていただけのような気もするがそれはとりあえず置いておくことにしよう。
「それで、今日はどうしてこちらに? ただ情を交わしにきたわけではないのでしょう?」
「情を交わすって……まあ半分くらいは本当にデートしにきたんだけど、ちょっとそこの泉に用があって」
「この泉に、ですか? ここには魚竜と魚くらいしかおりませんが、一体何の用が?」
「ちょっとだけでいいから、その魚を分けてもらえないかなって思ってさ。おめでたいことがあったからそのお祝いに料理を作るんだけど、それに魚を使いたいんだ」
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