悪たる樹霊

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「……で、アンタ達どうしたの?」 テーブルの上に並べられた豪奢な料理の数々を左手に持った皿に次々と盛り付けていくと、唐突にそんなシャインの訝しさ満載の声がかけられる。 「……だいたいなんのことかはわかるけど一応聞いとく。何が?」 ぴたりと料理を取る手を止め、苦笑いを浮かべながら声をかけられた方に視線を移すと、空のワイングラスと瓶を一本持ったシャインが呆れたような表情を浮かべ立っていた。 「わかるならわざわざ聞き返さないでよ……美月ちゃんと何かあったの? 帰ってくるなりなんかよそよそしいし、仲良くデートしてたはずなのになんで距離感離れてんのよ」 「いや、まあちょっとあったというかなんというか……」 「なに、嫌がるあの子に強引に迫ったりしたの?」 グラスを手渡され、シャインに酌を受けながら彼女の疑問に曖昧な答えを返すと、話題に上がった恋人の方にちらりと視線を向ける。 ルナは俺とテーブルを挟んだ反対側、それも四角いテーブルの対角線上という、パーティー会場の中では考え得る限りもっとも離れた場所でリリアさん、セブンの三人で何やら楽しそうに談笑しながらグラスを傾け、自身がマリアさんと共同で手がけた料理の数々に舌鼓を打っている。 しばらくその背中を見つめていると、どうやら俺の視線に気付いたのか、ふとこちらに目線を向けるが、目と目が合った瞬間さりげなく逸らされる。 「そんなことはしてないよ……」 「あっそう、まあアンタにそんな意気地が無いのはわかってるけどね。どうせいつもの愉快なすれ違いでしょ?」 むしろ強引に迫られたのは俺の方だったりするのだが、流石にそれを言うのは憚られたので曖昧に言葉を濁し、いつの間にか自身のグラスを用意していたシャインと本日二度目の乾杯をする。 チン、と軽い音を立ててグラス同士がぶつかると、二人のグラスの中に満たされた紅いワインがゆらりと波打った。
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