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2051年 3月23日
「ヘルメス戦の日取りが決まった」
彩楓との思い出づくりから三日が経ち、学校からの課題も特に出されておらず心置きなく春休みを満喫している俺達の元に、そんな知らせが強面の仏頂面を添えて届けられた。
「いよいよですか……分担したとはいえ、思ったより時間かかりましたね」
湯気を燻らせるティーカップをアルマダの前に置くと、ルナが左手に持っていたティーポットの中身を空だった俺のカップに注ぎ入れる。
アルマダに出す分を淹れるついでに俺の分も用意しておいてくれたらしい。
さりげなく用意されていた一人分のミルクと角砂糖を紅茶に投入し、ティースプーンでかき混ぜながらテーブルの向かいに腰掛ける禿頭の巨漢に視線を向けると、ルナの言葉を受けたアルマダはその顔に苦笑を浮かべ、かぶりを振った。
「この辺はこのゲームがVRMMOたる所以だな。他のオンゲーみたいに会話スキップも無いし、動くのは自分の足だからな、どうしても一つ一つに時間もかかる」
「難易度も普通に高いしそもそも数も多いしな……」
ヘルメスへの挑戦権を得るための条件として突きつけられた、≪ヘルメス≫首都のクエストのコンプリート。
広大な街と多いNPC人口に見合ったクエストの数々を前線組をいくつかのパーティー単位に分割してローラー戦術にかけて攻略を進めてきていたのだが、いかんせんその総数が多い上に一つ一つの難易度が高かったため、昨日の深夜にようやく全てのクリアが確認されたらしい。
俺達は早々にノルマを片付けたのでこれまで悠々自適に暮らしていたが、いよいよ本番となれば気を抜いてはいられまい。
ルナが淹れてくれた紅茶を一口飲み、唇を潤してから居住まいを正す。
「それで、日程の方はどうなったんだ?」
「ああ、一応日曜の正午からになってるが……その前に、他のメンバーはどうしたんだ?」
「まとめて情報を伝えられれば手っ取り早いし確実だしで助かったんだが……」とぼやくアルマダに、隣の椅子に座るルナと一度顔を見合わせて曖昧な笑みを浮かべる。
ここは最早半ば俺達の溜まり場と化したマリアさんの万屋の店舗兼住宅のリビングだが、ここには今その家主は不在である。
マリアさんだけでなく、シャインもアイドルの仕事で空けておりーーというか仕事の場合はほぼマリアさんとシャインはセットで居ないーー、リリアさんとセブンは二時間ほど前にデートと称して街に繰り出して行って帰ってきていない。
この家に居るのは俺とルナの二人だけで、今回ばかりは先程伝言があると来店したアルマダの間が悪かった。
「ごめんなさい、ちょっとタイミングが悪かったみたいで……」
「いや、てっきりいつも通り全員揃ってるものだと決めつけていきなり押しかけた俺が悪かったし、謝ることではない。
むしろ謝るべきは俺の方だろう。事前に入れたメッセで全員が揃ってるかどうかも確認するべきだった。せっかくの二人きりの時間を邪魔したみたいだしな」
「いえ、そんな……二人きりって言ってもお茶を飲みながら喋ったりしてるだけですし……」
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