万能の神

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アルマダの言葉通り、そのままエントランスの奥に続く大階段を上り、二階の両側に配置された扉のうち右手側の扉を開け放ち、先へ進む。 進んだ先はやはりヘスティアーのものと同じく、城の外壁の上に設けられた通路。 外側には広大な草原フィールドが広がり、内側には、庭というには些か広すぎる気もする中庭が広がっていた。 「アレって……! ≪ブリリアント・バウ≫!?」 中庭の仕様は流石にヘスティアーのそれとは異なっており、そこには青々とした芝が一面に広がり、数十頭もの純白の美しい毛並みを持つ牛達がもしゃもしゃと草を食んでいた。 ボスダンジョンに似つかわしくない長閑な光景に目を疑うと、隣で「うぅ〜〜〜ん……?」と訝しさMAXの声音で牛達を見ていたルナが突如声を上げた。 「アレ! 全部ブリリアント・バウだよ! S級食材の!!」 「お、おう……?」 「とにかく出てこない! 強い! 逃げ足が速いの三拍子揃ったレア中のレア食材よ。そんなのがゴロゴロ転がってるんだからさすがGMの城。なんでもありね」 「貴重なレア食材だからって、飛び降りて狩りに行ったりしたらダメだよ? ルナ」 「う、うん。わかってるよ……あの数は流石に厳しいし……」 それにしてもなぜに牛……と一瞬考えてから、そういえばヘルメスの逸話の中に生まれて間もない頃にアポロンから五十頭の牛を盗んだというものがあったのを思い出す。 確か牛を後ろ向きに歩かせ、足跡を偽装してまんまと五十頭もの牛を盗み出してのけたのだったか。 これによりヘルメスは盗みの権能を、そしてそれを追及に来たアポロンに嘘をつくことで嘘の権能を得たのだった。 つまりここにいる牛達はヘルメスが盗み出した牛なのだろうか。神話上ではその後ヘルメスとアポロンの間に物々交換がなされ、牛はヘルメスのものになったのだから、大量の牛がここにいようとさしておかしなところはあるまい。それが尋常でない高級食材であること以外は。 「ほら、行こう、ルナ。もう先頭が塔の方についたみたいだよ」 「あ、う、うん……」 先頭を歩いていたアルマダが謁見の塔の麓に到着したのを見届けてルナに先を促すと、ヒートアップしたのがよほど恥ずかしかったのか、頬を桃に染めて力ない声で頷き、再び歩を進めるのだった。
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