0人が本棚に入れています
本棚に追加
僕はクラスで少しだけ勉強ができる、ただの無口な小学生だった。その僕が今では、政府直属の兵士になってしまったのだから、人の運命とはわからないものだ。
汚れたシャツと、迷彩柄のパンツ、そして履き古した軍靴に身をつつみ、僕はグレネード・ランチャーの弾倉を点検しながら熱帯林を歩きつづけているところだった。
運命とは本当に不思議なもので、世の中は何が起こるか、わからない・・・・・・。
「ここに居たのか、真白・・・・・・。急に姿が見えなくなったと思ったら」
彼女の姿を視界に入れるなり、僕は声をかけた。
「秋人! あたしのことを探しに来てくれたのね!」
「・・・・・・いいから静かにしてくれ。とにかく、ここから離れよう、真白。さっさと移動しないと見つかる」
僕らの属する地下政府軍の前線基地から離れた森の中。生い茂る木々の間に佇んでいるのは、間違いなく真白だった。
真白は僕のところへ駆け寄った途端、嬉しそうに笑った。
僕は安堵の息をついた。内心、とても心配していたからだ。
「言っておくけど、僕はおまえを助けに来たわけじゃないから」
「何よ。違うの? じゃあ、どうしてここに居るの?」
「任務だから。それだけだよ」
天蓋のように絡み合いながら枝葉を伸ばした熱帯雨林の中は、真昼とは思えないほど仄暗かった。ふと気を抜くと、下生えの草に足を取られてしまいそうになる。
「秋人。本当に、それだけなの?」
「もちろん」
「本当は、あたしを心配して来てくれたんでしょ?」
真白は15歳にしては大人びた美貌を僕に向け、嫣然とした微笑を浮かべた。思わず心が動きそうになってしまう。しかし、この笑顔に騙されるわけにはいかないので、すかさず僕は否定することにした。
「そんなわけないだろ。たまたま、こっちまで中隊長を探しに来ただけだよ」
「なんだ。残念」
真白は落胆した様子で肩を落とすと、臆面もなく僕の腕にまとわりついてくる。
しかし、僕はにべもなく一蹴した。
「何が、残念だよ」
すると真白は口を尖らせる。
「もう。秋人って、見た目の印象より口が悪いんだから。もし、あたしたちが平和な時代に出会ってたなら、きっと学校の先輩後輩とかで、秋人は素敵な優等生だったかもしれないのに。どうして現実ではライフルなんか背負った野戦兵士なのかしら」
最初のコメントを投稿しよう!