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それは、ある小国が生物兵器用に開発したウイルスが突然変異を起こしたことに端を発する。
僕が小学校二年生に進級したばかりの頃だった。
そのウイルスは瞬く間に地球全土に広がり、ラスト・パンデミックと呼ばれる事態に発展した。
ウイルスに感染し、潜伏期間が終わると、発症する者と、発症しないまま抗体ができる者とに分かれる。
発症した者は人の血液を求めて彷徨ったあげくに、元の人格を失ってしまう。そして人の血液を大量に接種しなければ死に至るのだという。
彼らを元の人格に戻そうという試みは何度も行われたが、いずれも叶わなかった。彼らが、人の形をとった別の存在に変化したことを僕ら人類が納得するまでに、多くの血が流されたことは、僕らの記憶に深く刻まれている・・・・・・。
彼ら発症者は、便宜的にSと呼ばれている。『S』とは、亜人種セカンドヒューマンの頭文字であるという。そしてファーストヒューマン・・・つまり僕ら人類のうち、亜人化を免れた者。つまり運よく抗体ができたものは、いつしか防衛組織を作り、暫定政府を樹立して移動国家となった。
僕は、その組織の一員というわけだ。組織の中で教育を受け、戦闘の腕をみがいてきた。
『S』の連中は僕らのことを地下政府軍と呼び、組織から外れた人間の血液を狙って、ゲリラのように町のあちこちに潜伏しているのだった。
「秋人。『彼ら』の気配はしなくなったわ」
「まだ油断しちゃだめだ」
「うん」
真白は、双眸に憂いを帯びた色を宿している。そうしていると、正直なところ見惚れてしまいそうになるほどの美貌の少女だ。僕は必死で彼女から目を逸らそうとした。
いっそ真白が、こんなに綺麗な少女でなければいいのに・・・・・・。
僕は腰に下げたグレネード・ランチャーに込められた榴弾の数を再確認する。バックパックに突き刺してあるライフルの弾倉も、念のために再点検しておいた。
今は21世紀も半ばであり、この秋津島列島の東側は、すでに『S』たちに占拠されつつある。旧人類は西日本を本拠地としながら、いつ終わるともしれない戦いに身を投じることを余儀なくされていた。
「中隊長を探して、早く戻らないと」
「ええ」
「真白。僕が探しておくから。先に戻っていて」
「待って。嫌だってば。あたしも一緒に行くわ!」
あっさりと、真白は断言した。僕は呆れの響きを声音に乗せた。
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