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「嫌がってる場合じゃないんだよ?」
「どうせ死ぬなら一緒に死のうかって言ったじゃない」
「堂々と嘘をつかないでくれ。僕はそんなことは一言も言ってない。だいたい、君がなついてくるせいで」
僕は呆れてしまい、額を押さえて反論しようとした。だが、そう簡単に黙る真白ではない。
「組織内でからかわれるって? そんなこと気にしなくていいじゃない。あたしたち愛し合ってるんだから」
真白は悪びれず、僕の体にしがみついてくる。彼女は唇を、僕の白いシャツに寄せた。体に触れそうな、唇の熱。
「・・・・・・あのねえ・・・・・・。いいから離れて・・・・・・」
「どうしてよ?」
この強引な性格。真白は組織で出会った日から、まるで変わらず傍若無人だ。
「暑いからだよ。ほら、離れて」
「つまんない」
「つまらなくていいから」
「もう。照れなくていいじゃない」
「照れてない・・・・・・!」
僕は赤く染まった頬を隠すように、真白から顔を背けるしかなかった。
僕はライフルの銃口が詰まっていないか無意識に確認し、銃身を布で拭いた。いざという時に手入れを怠っていたせいで身を守れないといった事態が起こらないように。
真白が僕の顔を見つめながら、ふと呟いた。
「ねえ。秋人って、ほんとは銃が嫌いなのね」
なぜ真白がそんな風に思ったのか、僕にはわからない。銃が嫌いだって?
「好き嫌いの問題じゃないよ。銃の所持は、前線に出る者の義務だから」
「・・・・・・そう」
身を守ることも攻撃することも、昔の僕は確かに得意じゃなかった。僕は臆病だった。だけど、もう現実や日常生活の方が変わってしまったのだ。僕も変わらざるをえないじゃないか?
まだ感染していない人々を守るために。
そして、君を守るために。
★ ★
一度は都市を覆うウイルスに感染した僕だが、さいわいにも発症することはなく抗体所持者として地下政府軍に入隊することができた。そして地下政府軍の野戦科の分隊に属し、たいがいは前線に出て偵察と行方不明者の捜索を兼任する日々を送っている。
真白も抗体保持者だが、彼女の役割は、本来は医療なり食料確保などの後方支援だという。それなのに、彼女は前線に出たがっては僕の任務を増やしてくれるのだから、困ったどころの騒ぎじゃない。
「中隊長の居場所なら、あたしが居た方が見つけやすいわ」
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