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僕が告げると、真白は言葉に詰まった。それから彼女は、暖かい口調になる。
「そうね。その方が素敵だわ。あたし、秋人のことを愛してる。本当なのよ。・・・・・・どうして信じてくれないの・・・・・・。ねえ。中隊長、見つかるかなあ。あたし、あの髭のおじさん、軍の中で三番目くらいに好きなの」
僕は、暫く沈黙してから微笑んだ。
「・・・・・・見つかるよ。彼も君を可愛がってた。きっと一緒に帰れる」
君と一緒に帰れる、と僕は真白に告げた。真白が頷いた。
「もちろん秋人もよ」
「わかってるよ」
言葉を交わしている間にも、『S』たちが僕らに近づこうとしていた。彼らは僕らを取り囲み、鶴翼の陣と呼ばれる陣形をとる。どうやら僕らを包囲して西側の切り立った崖に追いつめるつもりのようだった。僕と真白は顔を見合わせる。
「行こう、真白!」
その直後、僕らは中央突破することにした。敵めがけて走り出したのである。僕の銃は、そうそう長持ちしてくれないから、意表を衝いて敵から離れる以外に方法がない。迂回も不利だ。だいいち真白が一緒にいる。彼女を連れて、そう長い距離を逃走できるとは思えない。
亜人『S』たちが追ってくる。僕らは息を弾ませた。
真白が歯を食いしばって僕の脚に必死でついてくる。おぶってやろうと思い、彼女を背負えるタイミングを図った。その時だった。
閃光が僕らを襲った。
辺りに立ちこめる血のにおいに、僕は顔をしかめた。
『S』が近くにいる・・・・・・。
どこから? どこに居る? 真白は無事だな?
「秋人、あそこ! 中隊長がいる!」
「中隊長!」
真白は、亜人たちの砦を視界に入れて叫ぶ。
僕らは、さらに全速力で走った。
石造りの砦に近づき、敵陣に入る。
僕は、ルートを塞ぐように設置された集落の中で、縛られている人影を見つめた。
見覚えのある大柄な体躯は、中隊長に間違いなかった。
僕は真白を岩陰に隠すと、地面を蹴って走り出した。中隊長の意識はないようだった。僕は彼を背負い、ウイルス保持者たちに銃を向け、真白のところまで戻った。
唸るようなヘリの降下音が聞こえてきたのは、その直後だった。ヘリは熱帯雨林の上を滑空し、徐々に僕らに近づいてくる。やがて轟音が森に響いた。ヘリの機体には、赤い蛇の紋章が描かれている。
これは間違いなく『S』の紋章だ・・・・・・。
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