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僕はライフルを下ろし、代わりにグレネード・ランチャーを片手で掴むと、真白の手を引いて走った。もちろん背中には中隊長がいる。この状態で、どこまで逃走できるかは定かではないが、行くしかなかった。
「急ぐぞ!」
真白が頷いた。その次の瞬間だった。
「秋人ー!!」
真白の叫びが聞こえた。
僕は踵を返し、必死で手を伸ばした。届かない。15センチほどの距離が、僕と真白の間にあるのだ。あと少し。あと少しだけ手を伸ばせば届くのに・・・・・・。
★ ★
秋津島列島は、れっきとした亜熱帯性気候である。だが、それでいて、これだけ広大な規模の熱帯雨林は、この東海相模地区にしかないらしい。
真白を探して、僕が再び相模の熱帯雨林に足を踏み入れたのは、それから二日後のことだった。幸いにも中隊長の怪我は大したことがなかったものの、彼の衰弱は激しく、今も基地で静養している。僕の方は、殆ど怪我がない。ただ真白の手を離してしまったことに対する罪悪感が、僕の中に重くのしかかっていた。
あの時。
僕の手と、真白の手が離れたのだ。15センチ。あと、たった15センチだけ手を伸ばせば良かったのに・・・・・・。
真白は、亜人『S』たちの手に落ちた。
僕が、あの時、手を離してしまったから・・・・・・。
だから絶対に、真白を取り戻さなければならない。
真白に会いたかった。安全なところに連れ戻してやりたい。
後悔に苛まれる暇があるなら、一刻も早く真白を探すつもりだった。幸い、真白には抗体がある。抗体のある人間は生かされて捕虜にされる場合が多々あるのだ。だとすると真白は生きている可能性が高い。
しかし、僕は少しでも速く彼女を探しに行かなければならない。
抗体保持者の捕虜は『GOLD』と呼ばれる人体実験の対象にされてしまい、血液を抜かれて人工血液を製造するための被験体になるからだ。
「秋人。行くのか」
中隊長の折原さんが僕を見咎めるように告げた。壮年らしい皺が刻まれた彼の丸顔が、憂いの色を帯びている。
「はい」
「すまなかったな、秋人。真白ちゃんが俺のために・・・・・・」
僕は穏やかに首を横に振った。彼に咎などないことは明白だ。
「中隊長のためじゃありません。あなたは怪我の回復に専念して下さい。僕が行きますから」
「・・・・・・脚さえ無事なら俺が行くところだが」
「何言ってるんですか。帰還したばかりでしょう」
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