第1章

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 僕が少し呆れた声音で告げると、中隊長は蓄えられた顎髭に手を伸ばした。これは、ばつが悪い時の彼の癖なのだ。  中隊長が呟いた。 「真白ちゃんが、無事でありますように」 「僕も祈ってます」  そして祈るだけじゃない。  この両脚で、行かなければ・・・・・・。  そうでなければ、何のために僕の脚が発達したのか解らない。  僕が真白と知り合ったのは、約半年前のことだった。真白は、暫定政府の擁する軍への参加を希望しようとしていたものの、駐屯地の場所を探し出すことができずにいたらしく、旧市街で途方に暮れていた。  そこへゲリラ偵察をしていた僕が居合わせ、事情を聞き、空腹を訴えられて昼食のおにぎりを分けてやることにした。家族に会えなくて寂しい、と告げる彼女に、僕は答えた。君の家族に会わせてあげることはできないけど、僕も家族はいない。軍にいるとかえって危険も多いけど、僕と来るか、と。真白は、頷いた。そして彼女が軍に入隊してからも妙になつかれ、僕は世話係のような立場になってしまい、少女のお目付役だと上層部にからかわれるまでになったのである。  中隊長は暫く沈黙を落とした後、眉間に皺をよせた。 「だが今は行くな。秋人、二週間後の捕虜奪還作戦に参加させて貰え」 「中隊長・・・・・・」  僕は眉をひそめる。  二週間後に予定されているのは大規模な作戦であり、そこで真白を一緒に取り戻せばいいと彼は言う。ゲリラ的に僕が単独で潜入するのは危険きわまりないからと。  中隊長のいうことはよくわかる。だが、事は一刻を争うのだ。 「しかし二週間の間に、被験のために血液を失いすぎてしまわないとも限りません。真白がいつまで無事でいるか・・・・・・。だから規約違反になっても、僕はすぐに行かなきゃならない」  そうでなくても、武器の修理に二日もかかってしまったのだ。これ以上は待てない。僕は修繕を終えたグレード・ランチャーを手にすると、任務でもないというのに単身、防衛組織の基地を後にした。  これは規律を超えた単独行動に他ならなかった。  もう戻ることはできないかもしれない。  でも真白の手を離したのは、僕だ。だから諦められそうになかった。これは、僕の責任だから。  どうしても行かなきゃならない。
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