5人が本棚に入れています
本棚に追加
昨日は、初めて彼女の家に招待されていた。
でも、やっとケーキ売りのアルバイトが終わった後、彼女の姉が。
思い出しかけて止める。
言い訳にしかならない。
「……ごめんね」
じわりと、見つめる瞳がうるんだ。
「姉様には、ケーキより、あなたを持って帰って来て欲しかったわ」
あの姉に持って帰られたなら、きれいに折り畳まれて焼酎にでも漬けられていそうだけれど。
想像を振り払い、サトルは急いで鞄の中を探る。
「ごめん。遅れたけど…クリスマスのプレゼント」
掌におさまる小さな箱は、受け取った両手のなかで、すぐにリボンを解かれた。
中には、グラスに詰められた、シュシュと花の飾りがついたヘアピン。
拗ねていた彼女の瞳に、別の輝きが映った。
「つけて?」
さっそく髪へ挿そうとするが、サトルには難しい。四苦八苦する肩は白くなり、ついには枝から雪の塊が落ちてきた。
「まあ」
彼女がやっと笑った。
「大丈夫?」
「びっくりした」
ハンカチで拭いてもらう鼻先を、良い香りがくすぐる。
「暖かい所に行きましょう?」
「……うん」
花と焼菓子の香り。優しい暖かさ。
きゅんときて、我慢できずに抱きしめた。
「大好き」
くすくす笑われ、贈り物が彼のセレクトでない事も、すぐにばれたけれど。
「お誕生日、おめでとう」
サトルはやっと、彼女に笑顔を見せられた。
<おわる>
最初のコメントを投稿しよう!