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それまで妄想していた果てしない夢は、すぐに萎んでしまい、快適だった空間が一気に針のむしろのような場所に変容してしまったのだ。
もう帰ろうと、情児は席を立ちたかったが、団体客は情児の真横の席まで迫ってきて、この状況で、外に出るまでに、体をぶつけて「すいません」を言わなければならない数を計算すると、とても今外に出て行く気にはならなかった。
体をぶつけた数だけ、知らない人にウザがられるのが、部外者としてはちょっとした心労だったのだ。
とは言え、そこはさっきまで、自分が1人で占領していたはずの土地だったのだが。
情児はおもむろに、伸びるアイスを手にとると、団体客に悟られないように、トイレに駆け込むことにした。
カフェ&レストランに金払って入ってまで便所飯かよ…とは思ったが、針のむしろに留まる辛さを思えば、これもやむを得ない。
情児はそう考えて、トイレの位置を確認し、最短距離でデザートの伸びるアイスを懐に隠してトイレに駆け込もうと歩を進めていた。
トイレまでの距離はそう遠くない。
体をぶつける可能性のある団体客の数もそう多くないと踏んだ情児は、伸びるアイスを着てきたジャケットの影に隠しながら、なんとか歩を進めて、トイレに到着した。
だが。
トイレには鍵がかかっており、1つしかない個室は使用中であった。
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