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行きに見た小学校の辺りまで来ると、マフラーで頭まで包んだ老人に出くわした。
「あの……あの……山を降りたいんですが、バスはまだありますか?」
大野が息絶え絶えに問うとその老人は腕時計を見て「最終がまだあるだろうよ」と答えた。
そして、雪まみれの大野に顔をしかめる。
「兄さん、凍傷になるぞ。替えがあるなら乾いたものに着替えてけ」
大野は老人に「ありがとうございます」と言い残して、逃げるようにバス停を目指した。
雪深い集落を一時間もせずに後にした時、大野は痛む足先から靴下を取り除きながら、一人バスの中で安堵の涙を流した。
何が幻覚だったのか分からない。
ただ一つ、確実なのは……あの目は猫の目などではなかった。
足の指先は熱をもったようにジンジンとしていることがなぜだか少しホッとした。
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