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そういって、老婆は立ち上がった。
老婆が出てめくれ上がった炬燵布団の奥を、大野は腰を抜かしたまま、見てしまった。
確かに、そこは平らな床が続いている。
掘り炬燵ではないことにもう一度寒気が走って、生唾をごくりと飲み込んだ。
先ほどまで足を入れていた場所は何処だったのか、答えはないまま、まだ湿ったズボンが肌に付く。
怖くない、こんなことなんてことない……繰り返す大野はカチコチと響く時計の音を耳にしていた。
ストーブに掛けられた靴下を掴むと、履かなくてもいいのに、パニックになりながら靴下を履いていた。
「帰るんか?」
大野は掛けられた言葉に振り向くことすら出来ず、上擦った声で「きゅ、急用が……」と、返した。
「そうか……」
残念そうなそれに背を向けたまま、一目散に屋敷を出た。
家を出ると、遠くの方に光の筋が見えた。
それを目指して無我夢中で雪を掻き分け、転がりながら進んでいった。
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