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「吉沢先生!こっちこっち!」
コンクリートから立ち上る熱気の向こう側から、弾む声が飛んできた。同僚の数学教師の声は、ざわめきの中でも相変わらずよく通る。足の裏からじりじりと焼かれるのを感じながら、一歩ずつ段差を下っていった。生徒たちの白く光るシャツの間を足早に縫っていく。
「すみません。遅れてしまって」
汗で肌にはりつく腕時計に触れる。出発前に電話口で言われた時間よりも十分以上過ぎてしまっていた。奥の方に座っている他の先生たちにも小さく目礼すると、お疲れ、と口が動くのが見えた。
「本当にぎりぎりよ!ほら、もうすぐ東君が跳ぶ番!」
「いたたたた。先生、わかりましたからとりあえず座らせてください」
俺の背中を興奮気味に叩き続ける宮田先生は、くりくりとよく動く目を一層大きく見開いている。彼女のもう一方の手は、びしりと音が鳴りそうなほどまっすぐに一点を指差していた。
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