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突然我に返ったような声に顔を上げる。不安と、恐れと……困惑が混じった視線が飛んでくる。俺は彼の柔らかな双丘に触れていた。こんな厚い布越しではなくて、直接彼に触れたくてたまらない。
「も、もしかして……その……」としどろもどろに彼が言う。
「俺は……下、なのか……?」
彼は耳の端まで赤くなっていた。一瞬何を言われたのかがわからず、至近距離でまじまじと見つめてしまう。「ああ、もう」と悪態をつく人を思わず腕の中に閉じ込めた。
「忘れてくれ……」と胸を押して抵抗してくる。
「せんせ……樹さん」
「何でもない」
「好きです」
「だからそういうっ――」
言葉を奪った。息をさせるつもりも、余計なことを考えさせるつもりもなかった。彼の腕の力はまたすぐにぬけて、逆に俺にしがみついている。唇を離すと透明の糸が俺たちを繋いでいるのが見えた。指で彼の唇を拭いながら伝える。
「俺はどちらでも良いんです。ただあなたともっと……深く繋がりたい」
彼が息をのんで俺を見つめる。俺も視線を逸らさずに指を滑らせる。
「ダメ、ですか?」
しばらく待つつもりだった。これほど長い間、見つめているだけだったのだから、今更焦っても仕方がない。少しずつ、ゆっくりと近づいていければ良いと思っていたはずなのに。
しかし突然、指先が温かく湿った感触に包まれた。彼の無言の返答に俺の理性は一気に崩れ落ちた。
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