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「好きだ……もう、どうしたら――」
どうしたら、この想いが伝わるのだろうか。高校生だったあの頃、遠くを見つめていた人が俺のことを目に留めてくれた。俺の跳ぶ姿を綺麗だと感じてくれた。ただ自分のためだけにやっていたことが、初めて意味を成した気がした。この人をもっと感動させたい。目が離せないと思わせたい。そうすればきっと――俺のことを忘れずにいてくれる。そう信じることで、辛い練習にも耐えることができた。
それなのに。俺は突然絶望に突き落とされた。ひたすら痛み、役に立たない膝を切り落としてやると何度も叫んだ。高く跳ぶと約束したのに、何もできない自分を呪うことしかできなかった。
それでも思い出すのはいつでも先生のことだった。あの頃と同じように「さぼるなよ」と俺を叱咤する。狭い資料室に響く穏やかな声が聞こえる。掴んだ腕の感触が蘇る。「ありがとう」と言いながら、俺を見送った笑顔が浮かび上がる。
もう一度会いたかった。最初はきっと、手の届かない人への幼い憧れのようなものだった。今は違う。このままでは会いに行くことはできない。ただ年齢を重ねても、自分なりに何かを成し遂げなければ先生の隣に並ぶことはできない。先生は再び、俺ががむしゃらになる意味を与えてくれた。そうして俺はもう一度彼に――好きだと言えた。
「あず、ま……」
腰を打ち付ける動きに言葉が途切れる。ゆるゆると腕が伸ばされ、俺の目尻にそっと触れる。
「なんで、泣きそう……?」と不安げに俺を見つめる。
苦しそうに、それでも俺を受け入れてくれている人が途方もなく愛おしい。その思いを伝えたい一心で強く抱きしめる。
「もう離れたくない」
つぶやきは荒い吐息の中に紛れ込んだ。二人の呼吸が重なり、静かな部屋を満たす。彼の腕が背中にまわり、俺を宥めるようにゆっくりと撫でた。
「前にこうして……お前が俺の背中をさすってくれた。俺は嬉しかった。けど、そうは言えなかった」
彼の言葉に顔を上げると、少し困ったような笑顔がそこにあった。
「俺も好きなんだ、東」
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