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円満退職後、アサダ清掃に無事転職を果たした俺は、とある老人ホームのトイレ清掃に汗を流している。
キャップを目深に被り、薄モスグリーンのユニフォームを身につけ、空っぽのバケツを長いモップの柄に引っ掛けて闊歩すると、気分は軍服姿のマリリンマンソン。
談話室では誰が見るでもなくテレビがついていて、派遣のラピッド15秒CMが流れていた。
編集サギだ。ばたんと倒れたラピッドちゃんは、松本の丸いケツに救いを求めるかのごとく、
「ラ、ラピッド…」
お仕事選びのパートナー
派遣のラピッドは迅速に紹介します
チャンチャン。
早口で無味乾燥なナレーションだ。
俺の耳には相変わらず棒読みの声しか聞こえない。そんな孤独な世界の真ん中で、羽音に悩まされずに済むようクタクタになるまで今日も汗を流して働いている。
…のは表の姿で、
「なんで俺なんだよ。」
「傷ついた人間は信用できるから。」
夜な夜な松本の兄の僅かな手がかりを二人で求めながら、
「おい宮地~松本~、夜の部置いてっちゃうよ~。」
たまに元上司に誘われるという昼夜二重のゲージの中で、生きている。
ああ、何か困っているんじゃないかと聞かれても、別に何にも困ってないんだから答えようがない。
おわり
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