俺、ウサギ。丸いゲージの中

「派遣のラピッド」は、この業界では新参だ。
いつの時代も出来るだけ人件費を抑制したい企業側は、必要最低限の業務を請け負ってくれる人材を重宝している。3ヶ月契約の更新を繰り返し、人員カットしたくなったら契約更新しなければいい。合法だから世間にリストラと叩かれることもない。

こうした企業が俺たちのお得意様。
人事を悩ます人材探しもこっちに任せてくれりゃあ手間が省けてメリットデカい。
俺たちは企業に請求しマージンを差し引いて派遣スタッフに賃金を支払う。仕組みは至ってシンプルだ。

以前は日雇い労働者を多数送り込むことで粗利を稼いだ派遣業界だが、派遣法がまた改正され、日雇いは原則禁止になった。この業界は実は生き残りに必死だ。ラピッドのような新参は古い付き合いの企業がない。営業は日々企業を回り、1人でもいい、派遣スタッフを送り込む枠を確保すべく売り込みをかける毎日。みんな必死に汗かいている。

そういう背景を背負って俺はアサダ清掃の門の前に突っ立っているわけだが、…遅い。
今日からここに藤田さんというオジサンが就業することになっている。藤田さんとアサダの所長と俺の顔合わせ、約束の時間まで5分を切った。