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俺はどっちでもいいんだ。派遣スタッフのドタキャンには慣れてるとは言いたくないが、書き立てるほどレアでもない。自信がなかったり、派遣先に納得できてなかったり、急に腹が痛くなったり、高熱が出たり、身内に不幸があったり、みんなそれぞれ事情がある。
ただこれは…制服や名札などを準備して労働者を受け入れる準備を進めてきた企業に大変失礼なことだし、いいスタッフですからぜひ、とプッシュした俺の言葉が覆され、結果的に俺は嘘をついたことになる。
だから詫びを入れるのは俺だ。
「本当に申し訳ありませんでした。」
「まあ、またの機会に頼むよ。」
頭を垂れる俺にアサダの所長は、幸いにも土下座を強要し動画撮影するほど下品ではなかった。
応接室から放り出された俺は、バッグの中で鳴り続ける社用携帯…どうせ小仲だ…を無視し、スマホ画面で時間を確認する。
次の訪問先は午後の予定だっけな。この空き時間に新規開拓へ奔走するほど熱のない俺、今朝の加奈子からのlineを思い出した。
〝順調も順調、
モヤモヤしてさっき返信しないままになってしまった全文を一気に削除、改めて打ち直す。
〝今日は休み?〟
加奈子の生活を知らない俺は、他愛もないことで連絡するのに気が引けている。小仲いつみみたいに安易に電話できるやつ、気がしれないよなー。
けれど案外早いレスで。
〝休みよ。仕事は順調なの?〟
〝病んでる。カウンセリングしてくんない?〟
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