53人が本棚に入れています
本棚に追加
かといって、自分でもうまく説明しきれないことを深く考えるのが面倒で、加奈子とは自然消滅。進学も夢も諦めたってのに、加奈子はそれでもたまにlineを寄越し、俺と縁を切らない。
「だったら百合ヶ丘のコーヒーショップに、11時には着く。俺は待たないし、無理して来なくていいぞ。」
別に来なくていいんだ、俺はパンとコーヒーで時間を潰して仕事に戻るだけだから。
期待しないということが、この世界から身を守る方法なんだ。
信号が赤から青へ変わる。平坦な道を他人とぶつからないように、ただひたすら真っ直ぐ進む。
店に入ると、既に席に座ってコーヒーを飲んでいた加奈子が手を振って席を立った。
「良くん!」
先を越されたな。相変わらず行動力あると思う。こいつ、進路の決断も早かったんだ。
「このまま出よ。時間もったいないし。」
「お前、いつからタバコ吸ってんの?」
「え?吸ってないけどにおう?」
「電話してた時吸ってたろ。」
「女がタバコ吸うの、嫌い?」
「いや、別に法律違反じゃないよ。」
「良くんがタバコ吸う女をどう思うのかを聞いてるんだけど。」
「俺?どうもこうも何とも思わない。好きにすればいいよ。」
「あ、ここにしよ。」
通りがかりの古びた洋食屋に加奈子は入って行った。
黙ってついて行った奥の席は、ワインレッドのベルベットソファ。俺は日替わりランチを、加奈子は見た目華やかなフルーツたっぷりのワッフルを。
最初のコメントを投稿しよう!