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「手伝うって言ったわ。」
「たぶん俺は加奈子のこと、」
「ストップ。私は良くんを応援したいだけ。遅かれ早かれ今の仕事辞めるにしても。」
「……」
ストップをかけてくれて良かった。
さっき俺の口はお前を「女として見ることができない」と言おうとしていた。
「衝動的に辞めるより、笑顔で送ってもらえる方がいい。そう思わない?」
ああ。そう思う。
加奈子にはシコリが残ってるんだろ?
退院してヤケになった俺が加奈子まで避けるようになって、傷つけてしまっただろうな。
傷つけた…こんな俺だって言葉としては分かるんだ。
でもお前がどんな風に傷ついて、俺はどうしたらいいか教えてくれなんて、そんな失礼な相談をお前本人にできるかよ。
「食後のコーヒーとラテアートお待たせしました。」
「わーっ。どんな絵が描いてあるのかなー?」
カップがトンとテーブルの真ん中に置かれ、加奈子が乗り出しラテのキャンバスを覗き込もうとした瞬間、
「一口飲ませて。」
カップを奪ってすすってやった。
「へえ。ラテなんちゃらってこんな味だったか。あ、やべ、そろそろ仕事に戻らないと。じゃ。」
海老フライの軽い仕返しのつもりもあったが、伝票とバッグを掴んで逃げるようにレジに向かった。
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