俺、ウサギ。丸いゲージの中

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ハイハイ。俺がメシにありつけるのは、真夜中も正月もいつもどこかで派遣スタッフが働いてくれているお陰で、そう思ってたった一日くらい休みの日に身体張って快くウサギに転生するのも悪くないだろ。 だってこれも仕事だろ。 ヘイヘイ。理不尽の落としどころをやっと見つけ、やって来ましたイベント当日。快晴も快晴。朝っぱらから人出も上々。フカフカウサギの真っ白な着ぐるみを装着し、松本にチャックを上げてもらっていたら、スーツとネクタイ姿でのぼり旗を運ぶ課長に気づいた。思わず呼び止めてみる。 「あれ?あのー、課長。一緒にウサギになるんじゃ?」 「それは夜の部だ。」 はい?俺一人でずっとこんな格好かよ! 「夜までやられちゃ身がもちません!」 「何をフガフガ言ってんの。」 叫んだ時にはもう、容赦なく松本にウサギの頭を被せられていた。観念するしかないけどさ。 うー、なんて息苦しい仕事なんだよ。暑いし。モワモワする。 「派遣のラピッドでーす。」 でも手を振って風船を渡せば子どもたちはピーピーキャーキャー騒いでいる。 夢の国のネズミたちもこんな歓声を聞いているのか?もっと喜び溢れる色調で。そりゃモチベーションになるわなと、少しうらやましい。 まあ俺も無味無臭灰色の歓声に向けて、せめて今日一日だけはウサギキャラになりきって、みんなに夢を見てもらうことにしますか。仕事仕事。週末は子連れの親子がたくさんだ。
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