俺、ウサギ。丸いゲージの中

この日は今度新規で配属の決まった派遣スタッフの、入職前研修というやつに主任と同席した。
就業する前には社会人としての心得とかビジネスマナーとか、必ず受けてもらうお約束になっている。

「この前モールで見かけたラビットちゃんが印象強くて思わず登録させていただいたんですけど、こんなに早く仕事が決まるなんて。」

退屈な内容なのに新規スタッフの川井さんは終始笑顔だ。それはそうさ、ウチのウリはスピード感。ラビットじゃなくて、ラピッドだけどな。
働く心得的レクチャーをひと通り終えた主任は、快く応答した。

「実はここにいる宮地がラピッドちゃんの正体なんですよ。」
「本当に？ぜひまたやってください！」

俺は苦笑い。主任、着ぐるみの中身バラすのタブーですが。
川井さんは配属先でも好感度高そうだ。午前中から昼過ぎに終わるこの仕事は、ラピッドからも主婦を多数派遣しているからな。弁当専科デリシャスは大事なお得意さまと言える。