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さあて、三日月屋酒造の社長に電話するんだったな。み…み…み…
「宮地くーん、また求人でも探してんの?」
肩を小突き、俺のパソコン画面を背後から覗き込んだのは、やっぱり広瀬サン、上のフロアの総務のお姉サマだ。
「俺、営業ですから。他社の案件は知っておくべきでしょ。業態とか雇用条件とか。」
そのくせ反射的に求人サイトを閉じたのは、これ以上詮索されたくないからで。
「昨日は押田さんとお見舞い行ったんだって?」
「もう知ってんですか。」
「朝イチで見舞金が計上されてんだもん。ねえ今日こそお昼一緒に食べない?」
「食べません。」
「忙しくてもちゃんと食べなきゃダメよ?」
あなたと食べませんという意味を、何を都合よく解釈しているんだ。顔を上げると視界の端では押田課長がまだこっちを睨んでいる。
「そうだ、広瀬さん。松本さんを誘えば?」
分かりやすいように親指でクイっと隣の席を指してやった。
広瀬は口を尖らせ、課長はついに、つぶらな瞳の真っ赤な蒸気機関車になって、
「宮地!三日月の社長には俺が電話する。お前には頼まん!とっとと仕事に行け!」
ポッポー。頭から湯気でてんぞ。
俺は初めからそのつもりだよ。ピュッと姿を消した広瀬に続いて、ゆっくり席を立つ。噛み合わない会話が続くばかりだしな。
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