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会社だってそうだ。人材ってのは、モノじゃねえ。派遣は人身売買じゃねえ。いくら利益を上げてもあんたの会社のやり方は、100年後、いや10年後のやつらに笑い者にされ…
言葉にしなかっただけだ。
外回りを終え、無事にオフィスに戻ると、松本が言った。
「まさかこれで円満に退職できると思ってる?」
「当たり前だ。」
「お願いがあるんだけど。」
「他のやつに言えよ。」
「あなた、私に借りがあるの忘れた?」
「そんなもんねえな。」
「あるわ。」
松本は俺の目を見据えた。
「会社で知り得た小仲いつみの個人情報を社外の人間に相談してた。守秘義務違反してる。」
「あれは、その…結果的に同一人物だったじゃねえかよ。」
「社内の未払い現金を無断で持ち出してた。横領の疑いかけられてもおかしくなかったわ。」
緊張が走る。松本は広角を持ち上げ笑みを浮かべた。いつも鉄仮面なだけに不気味だ。
「でももみ消してあげる。誰も気づいてない。」
「脅し?」
「お願いだってば。」
確かに松本の仕事ぶりは尊敬するし思い返せばいつも助けてもらっていたが、それ以上でも以下でもない。
「もみ消す代わりに手伝ってほしいのだけど。」
「なんだよ、はっきり言えよ。」
松本が急に表情筋を崩して弱い女の顔を見せたせいで、さらに動揺してしまった。
「行方不明の兄を探すの、手伝ってほしい。」
「は?」
………
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