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本当はお金なんてどうだっていい。僕は、マイちゃんが廃棄にならないために、契約する言い訳がほしかっただけだ。
康弘も、僕に言い訳を与えるつもりで急にお金の話をし始めたのだろう。全く、面白くもない。
「廃棄とか溶鉱炉とか、不穏なことばっかり言ってる博士のことなんか、もう知りませんからね! 経緯はともかくとして、これからは私を救ってくれたマスターと幸せに暮らしていきますから!」
「それはいいな。 お幸せに」
康弘はそう言い残し、僕たちに背を向けた。
「博士ときたら、今度会ったら博士が口を開くたびにスマホをいじり始めますからね! あんなだからお友達がいないんですよ!」
ロボットがスマホをいじるのかと突っ込みを入れたくもなったけど、僕はなんとかこらえることができた。
「康弘に友達ができた日には、雪どころか隕石が降り注ぎそうだね」
「康弘?」
僕があいつのことを下の名前で呼ぶことを疑問に思ったようで、マイちゃんはそこにつっかかった。
「まあ、あいつの話はいいじゃないか。改めて、僕は『ポン』と呼ばれている。君もそう呼んでくれていいよ。これからよろしくね」
僕はそう言って右手を差し出した。
「よろしくお願いします! 私のことは『マイ』とお呼びください!」
彼女も右手を差し出そうとしたが、彼女の右手は僕の手に届く前にピタリと止まってしまった。一体どうしたというのだろう。
「マイちゃん?」
僕がそういうと彼女は少し震えて、重い口を開いた。
「あなた、何者ですか?」
僕は何者か。哲学的な話をしたいのであれば、僕は哲学を学んだことがないからわからないと答えるべきだろうが、彼女が知りたいのはそういうことではないのだろう。
「さあ、なんだろうね」
「私はあなたのことをマスターだなんて認めません! 実家に帰らせていただきます! 博士っ! 帰りますよ!……って博士はどこですか!?」
「博士はさっき帰ったじゃない」
田口さんがそう言うと、マイちゃんの顔はみるみる青くなった。
「博士ーっ! カムバーーーーーック!!」
まあ、康弘が戻ってきたとして、君は溶鉱炉行きなんだけどね。
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